鍼治療後の急死事件について(2)

先日書いた、鍼治療後の急死事件についてという記事に、多くのアクセスをいただき、びっくりしました。ありがとうございます。同業者も多いのでしょうが、一般の方々の関心がかなり高いのだろうと推察されます。そこで、以下に追加記事を書いてみたいと思います。

通電と気胸

さて、先の記事では「低周波治療していたのでは?」と書きました。その後の情報によりますと、使った鍼の長さは5センチで直径が0.18ミリ、専門家では寸六の二番鍼とよばれているものだと分かりました。この太さで通電すると、折れることもあるので、専門家は使いません。ですから、低周波治療をしていた可能性は低いです。

低周波治療では鍼が微妙に動きますので、鍼がこまかい振動にさらされ、細いと金属疲労や腐食で折鍼することがあります。また接骨院でよく使われている使い捨ての鍼は通電に向かないので、今回の事故は通電によるものではなかったのかもしれません。当初、「何カ所も肺に穴があいたということは、太い鍼で低周波治療を行い、振動で肺まで鍼が移動したのでは」と予想したのですが、この予想は外れた可能性大です。

気胸と技術力

ということは、普通に刺して気胸を起こしたことになります。胸郭の中央ライン、つまり女性がブラジャーで乳房を隠す部分と、肩胛骨と背骨の間は筋肉が薄く、下手に鍼をしたり、刺鍼時の痛みで患者さんが動いて肺まで刺さってしまうことがあります。ですから、そういう部位には鍼を刺さない鍼灸師もいます。しかしこれは技術力で避けることができます。鍼を皮膚に対して水平に近い角度で刺したらまず、肺まで行きません。背骨に背骨にむかって刺すことがありますが(3センチくらい刺入することもあり)、刺入の方角や患者さんの体動を防ぐ技術があれば肺に刺さることはありません。

鍼での気胸と死亡の関係

今回の事故は気胸が原因としてみられて、患者さんがお亡くなりになられました。新聞記事を見て疑問に思ったんですが、なんで気胸で死んだんだろうということです。体力がある人の場合、片肺が気胸になっても、もう片肺あるので、普通は死んだりしません。息苦しくなったり、日常生活に支障を来すことがあって、安静にしていたら治ることも多いです。鍼灸学校の学生が授業でお互いを治療中に気胸を起こしたものの、少々息苦しいだけで、学業に支障はでず、一週間ほどで治った・・・みたいなことも、たまにあります。新聞記事では、鍼が原因と思われる穴が、肺に複数あったとのことなので、どんな刺し方をしたのか、非常に疑問に思います。肺に穴を開ける意図でぶすぶす刺すなんて、殺意をもって以外にありえませんから。このあたりは新聞もいいかげんなことを書いているのかもしれません(新聞の偏向報道・印象操作は日常茶飯事ですから)。

自然気胸と刺鍼事故

今回の事故の話からまったく離れますが、自然気胸という病気があります。外傷などの理由がなく、気胸を起こす病気です。自然気胸をよく起こす体型は、胸郭が狭くて、非常に痩せている人です。

刺鍼事故の資料を読んでいますと、鍼治療をした直後(最中?)に、自然気胸を起こす例があるようです。このような場合、鍼灸師には責任はないのですが、患者さんの思い込みや医師の誤診で、刺鍼事故と受け取られ、裁判になる場合があります。これは結構難しい問題です。もし避けるのなら、自然気胸を起こしやすそうな患者さんを治療するときに、鍼灸師は誤解されないように工夫する必要があります。


※2009/1/19追記
鍼治療後に生じた両側性緊張性気胸の1剖検例という論文を見つけましたので追記としておきます。初出は日本法医学会の英文誌に報告されたもので、リンク先はそれが全日本鍼灸学会雑誌に転載されたものです。

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