鍼は痛くないですか?

これはよくある質問です。他の治療院のHPでもよく載っていますが、なかなか難しい問題です。それは次のようないろいろな要素がからんでくるからです。

   鍼の品質の問題
   治療に使う鍼の種類の問題
   治療家の技術の問題
   治療法の問題
   患者さんの恐怖心
   患者さんの体質・体調

これらを細かく分析しないで「鍼はほとんど痛くありません」と患者さんに説明しても、実際治療を受けられた患者さんの中には納得されない方が出てくるはずです。ちょっとこれらについて考察してみましょう。

鍼の品質の問題

鍼先の品質によって痛みの起きやすさが変わります。質がよければ痛みがないし、悪ければ痛むことが多いです。このあたりは包丁の切れ味と同じです。

じゃあどんな針先がいいのかといいますとなんといっても手作りの鍼です。鍼の製造方法としては、手作りと機械によるものと大きく分けて二種類あります。

この頃の大半の鍼灸院は感染防止のためにディスポーザブル鍼(使い捨て鍼)を使っています。日本で認可を受けているディスポ鍼の大多数は完全自動化された機械で生産されています。この鍼は安価で製造できるのが利点ですが、手作りほど鍼先がよくないものが多いです。製造メーカによって、品質がかなり違いますし、同じメーカーのものでもパッケージによって、また1本1本の質のばらつきがありします。

これに対して手作りの鍼はかなり品質が良くて鍼ごとのばらつきも少ないです。特に江戸や明治時代からある老舗の鍼メーカーの手作り鍼はかなり質が高いです。デメリットは高価なことです。最高品質の手作り鍼と、一般的なディスポ鍼だと10倍近い価格差があります。

理想的には手作り鍼を使い捨てにするのがいいのですが、そうすると治療費をかなり上乗せしなければなりません。当院のような鍼数が少ない治療院でもそうなります。このあたりが良心的な治療院の悩みどころなんです。当院では手作り鍼も置いてますがほとんど使いません。いろいろなメーカのディスポ鍼を試してみて、質の良いのを選んで使っています。ちなみにディスポ鍼でも、手作りメーカーが作っているものは質の良いいです。

さて、以上が基本の話なのですが、次に鍼を再使用することについて述べます。質の良い鍼は消毒・滅菌して再使用することが多いです。ただし再使用するとそれだけ鍼先が悪くなってきます。再使用する場合はこれが難点ですね。昔は鍼が高価でしたので、鍼を研ぐのが弟子の修行のひとつでした。今は鍼を研いでいる治療院はほとんどないでしょう。

再使用に関しての注意点ですが、ディスポ鍼を再使用する悪質な治療院があります。ディスポ鍼は一度刺したら破棄という条件で作られています。患者さんがそれを見つけるのは難しいですが、ご注意ください。

治療家の技術の問題

鍼を刺す技術も刺入痛に大きく関わってきます。私の師匠の年代から言わせると、以前より刺入の下手な鍼灸師が増えてきたそうです。ひとつには国家試験に実技試験がなくなったのと、痛みを起こしにくい技術を持った教師が少なくなってきたのが大きな理由のようです。鍼灸学校出ててすぐに教員養成過程に入り、卒業してそのまま教員になって臨床経験ほとんどない鍼灸学校の教員が増えているからでしょう。

昔の治療家は師匠から「浮き物通し」「硬物通し」「生き物通し」という練習をさせられました。「浮き物通し」は、大きな鉢や鍋に水をいっぱいはって、果物を浮かべ、これに刺す練習です。水がこぼれないように刺すのは結構難しいです。「硬物通し」は木に刺す練習です。薄い板から厚い板へ、柔らかい木から硬い木へと刺す訓練をします。関西で活躍している某大先生なんかは鹿の骨に穴開ける練習をしてたそうです。「生き物通し」は犬や猫に逃げられないように刺す練習です。痛い鍼したらひっかかれて逃げられますから。

今の若い人で寸6の1番銀鍼を鍼管使わずに刺せるお方はどれだけいるでしょう?寸6の1番というのは長さが5センチ弱、太さが0.16ミリの鍼です。銀鍼は一般に使われているステンレス鍼よりずうっと柔らかいんです。硬い人の髪の毛くらいの柔らかさです。こういう鍼を、鍼管を使わずに刺すのはかなり技術いります。今でも日本の古典的な鍼をしている流派ではこういう鍼を使って刺入する練習をよくしてらっしゃいます。でも、そういうところで勉強したこと無い方は、そんな刺し方できません。

患者さんの恐怖心

鍼治療を受けたことがなく「鍼って痛いんじゃあ」って思って来られる方は、身体も心も緊張しています。皮膚が緊張していて、てい鍼という刺さない鍼を接触させるだけでも痛がる人もいます。男性や若い女の人に多いです。
大病した人や出産経験のある女性なんかは頭では怖がっていてもデンと構えていますから、比較的だいじょうぶです。母は強し。どちらかというと男性の方が怖がりです。

こういう方が来られると、治療家も腕の見せ所です。私などは根っからの大阪人。「ギャグのひとつもかましてリラックス!」と思いきや、オヤジギャク連発ではずすことも多いです。いや、それはともかくこういう方には刺す前に皮膚をさすったり軽く揉んだりして緊張を取ってやります。鍼を刺すときも、特別な刺し方があります。こういうところに秘伝があったりします。

患者さんの体質・体調

色白もち肌でぽっちゃり、あるいは知らない間に内出血している、こういう体質の方は痛がりが多いです。「てい鍼」というクギの先を丸くしたような刺さない鍼をあてるだけでも痛がる人がいます。中国医学では気滞痛とよびます。気の流れが滞って悪い人です。これも指す前に、肌を揉んだりさすったりしてやると難なく入ります。

カゼひいている人、特にカゼの初期でからだがゾクゾク寒気がしている人に鍼を刺すと痛がることが多い。これは体表に冷えが入って、皮膚が引きつっているからです。温灸などであたためてから刺すと痛みが少ないです。

他にも刺入時に痛みを起こす原因がありますが、このあたりが重要な点でしょう。初めての治療院に行ったら、ここに書いたことを思い出して、先生がどうされるか観察してください。

最後に、患者さん自身でできる、痛くなく治療を受られる秘訣を教えましょう。

    痛うてもなんでもええから、このからだの悪いのをなんとかしてくれ!

って開き直ることです。こういう人はほとんど痛がりません。最初の何度か痛がってもすぐに慣れてきます。それができん人は・・・「腹もくくられんような方は、性根を入れ替えるところから始めなあきまへんな。」って大阪人なら言うかも。

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